ジャスミンティーは時代を超えて、歴史上最も愛され、広く普及している飲み物のひとつです。約1000年に渡り中国の茶文化の基盤となっているこのお茶が初めて飲まれるようになったのは、宋の時代(960年~1127年)のこと。まさに現在と同じように、革新的なお茶の時代でした。しかし、その世界的な人気にもかかわらず、ジャスミンティーを作るためのプロセスはあまり知られていません。2023年7月にスミスのトップティーメーカーの2人が中国を3週間訪問し、この繊細なお茶の驚くべき製造過程を目の当たりにする機会を得ました。

物語は、中国浙江省の中心部にある金華から始まります。ここで、最高峰のジャスミンシルバーティップとなる茶葉はここで摘まれ、ジャスミンの香りを纏い、長い道のりの旅に備えて丁寧に梱包されるのです。茶葉の香り付けに使用されるは新鮮なジャスミンは金華から1000キロ以上離れた広西省で栽培されています。スミス・ティーメーカーの教育責任者であるドノヴァン・アイラート(Donovan Eilert)を含むティーメーカー達はそのルートを辿り、車と飛行機を使って一日がかりで「ジャスミンの花の街」として知られる緑豊かで湿潤な都市、広西省杭州に到着しました。

ドノヴァンは、ジャスミン農園に近づくにつれ、息をのむような光景に入り込んでいったと語ります。摘み取りやすいように腰の高さまで刈り込まれ、香り高く白い花は咲き乱れ、まるで深い緑色の海のように広がるジャスミンの低木。農園の端にはユーカリの原生林が広がり、マンゴー、レッドドラゴンフルーツ、ライチ、アップルバナナなどの賑やかな果樹が植えられています。

農園はいくつかの家族によって手入れされていて、家族の人数に応じて区画が割り当てられます。4月から9月の間、彼らは毎日まだ開いていないジャスミンのつぼみを摘み、ジャスミン市場に運びます。そこでは、生産者が買い手と物々交換をしていて、花の束を現金と交換するため、非常に賑わっている空間です。ここではマグノリアの花も売られていて、その濃密でフルーティーなアロマがジャスミンブレンドにほんのりと含まれることで、滑らかでシルキーなひと味違うジャスミンの花を作り出します。

ジャスミンの花が買い手の手に渡ると、すぐさま地元の工場へと運ばれ、そこにはすでに浙江省から届いたばかりの6つの巨大な茶葉の山が待っていました。そこへ、まだ開花していないジャスミンのつぼみが、茶葉の山が覆い尽くされるまで上からたっぷりと注がれます。吸湿性を持つ茶葉は、近くにあるアロマを吸収するとされていますが、ただ近くに置くだけではジャスミンの優しい香りを感動と衝撃を与えるほどの味わいに変えることはできません。私たちのジャスミンティーに隠されたとっておきの材料、それは時間と注意力、そして多大なる努力なのです。

夜9時から朝7時まで夜通しで、現場作業員が30分ごとに木製のシャベルで茶葉の山をかき混ぜます。この手間をかけた作業によって、茶葉とジャスミンの花が完全に混ぜ合わさり、柔らかい緑の葉に花の香りがたっぷりと染み込むのです。毎朝つぼみの開いたジャスミンの花は山から取り除かれ、茶葉は次の香り付けの作業が行われるまで保管されます。この作業は夜な夜な5日間に渡り繰り返され、その後茶葉とジャスミンの花はベルトコンベアーに乗せられふるい分けられます。これらの工程を経て、使用済みのジャスミンの花は山として残り、その魅力溢れる香りのみが茶葉にそっと閉じ込められるのです。茶葉はしばらく寝かせた後に、最後の乾燥工程を経て、完璧なジャスミンティーとして初めて世に送り出されます。

スミス・ティーメーカーでは、その魅惑的な味わいと愛すべき歴史からジャスミンティーを大切にしてきましたが、今回の現場での体験はとても感慨深いものでした。普段私たちは、お湯を沸かし食器を用意して,ティーバッグを取り出すだけで簡単にお茶を淹れることができます。しかし、一杯のお茶、特に私たちが愛するジャスミンシルバーティップのようなお茶を淹れるには、専門知識を元に、多くの時間とエネルギーが費やされているのです。ジャスミン農園で過ごした時間を、ドノヴァンは単なる感動以上のものとしてこう語ります。「私がシンプルで簡単なものだと認識していた飲み物が、実際には想像をはるかに超える手間と時間をかけて作られていることを目の当たりにした。私はジャスミンティー本来の価値を多くの人に知ってもらいたいと強く思うようになった。」ジャスミンティーは自然の宝であり、時代を超えて愛される飲み物であり、そして私たちの心をつかんで離さない、まさに愛と労苦の賜物なのです。